感想「サザンと彗星の少女」
レトロフューチャー的なSFが好きなので、アマゾンでたまたま見かけてそのまま買った。
上下巻で合計500ページほど。
絵柄的には手塚治虫やジブリの影響を強く感じさせるし、内容も正にその通りだった。
全編アナログで書かれているため、一層オールドスクールの雰囲気を醸し出している。
SFによくある難解な設定とかは出てこない上、物語としては非常に単純明快な冒険譚という感じなので、これといって深く読み解く部分はない。
(自分としては難解な方が好みだが)
なのでSF風という方が正しく伝わるかもしれない。
総評としては良作だが名作や傑作ではないというラインだろうか。
以下、内容に関する批評の書き止め
所謂ボーイミーツガール的なお話の様式美とも言えるくらい普通の展開で、最初の30ページぐらいで最後のオチまでわかるレベルだ。話そのものに新鮮味みたいなのは感じなかった。
というか、話の流れは「天空の城ラピュタ」そのものといっても過言ではないだろう。
設定についても考証が甘いというか、別にSFである必要がないなというのが正直な感想で、彗星人であるミーナが持つ力がご都合的なまま終わってしまったりだとか、
そもそも幼い時から迫害され流浪してきたような少女が一般的に想像する「純真で孤独な少女」という人格を形成し得るのかとか、
AIが極端な思想に陥ったり、人間になりたがったり、復讐したりというのはさすがにアイデアが古いかなと感じるところとか、
SFらしい設定が十分に生かされていなかったりだとかで、今一つだった。
それと、人間賛歌的な終わり方なのに人間の陰惨で汚くて愚かな部分があまりにも少ないせいでものすごく薄っぺらく感じてしまう。
これは私個人の好みでしかないのだが、人間っていうのはもっと悪魔的な生き物だと思うし、AIもミーナも実はもっと大きな黒幕的存在に利用されているに過ぎないみたいなのを匂わせているとすごくSF的で良いのになと思った。
加えてAIとミーナは同じ作られたもの同士で共通するところがあるので同情できるみたいな場面が出てくるが、これにものすごいずれがあるように見えた。
というかミーナの出生についての情報が少ないので正直ミーナの言葉にはあまり重みを感じないというか、共感できなかった。
なので正しき道に進むミーナと道を違えたままのAIで対比になっている、ある意味物語の最重要ポイントなわけなのだが、いまいち説得力がないように思ってしまった。
それこそラピュタのような、二時間程度の映画にする前提ならまあわからなくはないが、高いメッセージ性や問題提起などの、作者の思想が感じられるような作品ではないと感じた。
まあ元々は短編になる予定だった作品らしいので、読みやすく、あくまで万人が見れるエンタテインメントに落としどころを付けたのだろう。
名作と呼ぶにはま足りていない要素が多いと言えるだろう。
絵に関してはもしかしたら好みが分かれるのかもしれないが、万人受けしやすい、丁寧で魅力的な絵であると思う。